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2017.03.30
カンガサーラの夏の日

昭和20年7月に東山魁夷に召集令状が届き熊本で対戦車迫撃兵として訓練受け、いずれこの戦争でまちがいなく死を覚悟していた。そのとき観た阿蘇連山が川端康成のいう、「末期の眼」の極めて美しく尊い風景だった。もし生還して筆をとることができたならこの風景をぜひ描いてみたいと決めた。終戦後東山は父、母、弟も相次いで病気で亡くし天涯孤独の失意のどん底の時代でした。そのような中で、千葉県の鹿野山に似たような風景があると聞き佐貫から3時間ほど山に登り寺に泊まり、そのスケッチから描いた作品が第3回日展に出展した「残照」です。

当時は篤志家の千葉県市川の中村勝五郎さんの事務所の2階に7年ほどそのご好意により住んでおり、「残照」もパネルを二つ切ってから紙貼りした作品で、完成していざ展覧会に搬入の時、絵を描くことに夢中で繋ぎ合せたことを忘れ、出そうとして部屋から出せなくなり、あわてて作品を描いた和紙をはがして仮貼りのパネルを再び切って運び出し、作品の方は丸めて窓から梯子で下ろしました。私は「残照」を見るたびに、中村様の事務所の2階のことを思い出します。よくも無事にはこびだせたものだと、いまでも思います。(東山すみ対談集)

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