企業価値向上のためのM&A戦略
経営者は、キャッシュフロー及び投資効率を重視する経営を行うことが求められており、企業価値の最大化が至上命題となっています。
このための経営戦略のひとつとして、投資効率の高い事業に経営資源を集中し、非効率な事業からは撤退するという、いわゆる「選択と集中」の経営が必要となっています。
また一方で企業は、インターネットの普及によるIT革命、経済のグローバル化、消費者ニーズの多様化、規制緩和による自由化、製品・事業のライフサイクルの短命化等、変動の激しい経済環境下にあって、いかに短期間で投資等の意思決定を行い、実行し、回収するかという「スピード経営」が求められています。
このような「選択と集中」、「スピード経営」という要求を満たしながら、企業の経営戦略を実現する手段が「M&A」です。
「選択と集中」のためには、企業が必要とするコア事業を強化・買収する一方で、不要なノンコア事業を第三者に売却することが必要です。
また、新規事業を立ち上げる場合には、自社内の経営資源だけで対応するよりも、他社を買収することで時間とコストを節約することが可能となります。
M&Aの目的とする経営戦略やその効果の主なものには、以下のようなものがあります。
新規事業の開拓と多角化
企業が新規事業を立ち上げたり、多角化を進めるには、多大な経営資源とともに時間とコストがかかりますが、M&Aにより時間・コストをかけずに事業の立ち上げを行うことができます。
また、仮に新規事業の立ち上げに失敗した場合でも、自社の経営資源で立ち上げた場合と較べて、買収した場合のほうが事業売却により投資回収がしやすいといわれています。
規模の拡大
IT革命によって時間と距離の有利性がなくなったことにより、市場シェアの獲得競争は一層激しさを増しており、トップシェアの企業のみが「勝ち組」として生き残っていける傾向が強くなっています。
こうした状況下では、一刻も早くシェアの獲得が必要であり、短時間での規模拡大を可能とするM&Aが有効となります。
既存事業の補完とシナジー効果
M&Aにより自社で欠けている販売網や生産力を確保することにより既存事業を強化・補完することが可能となるほか、統合後の管理部門等の統一によるコスト削減、統合による互いの事業間におけるシナジー効果が期待されます。
技術・人的資源の獲得
新規の技術開発やノウハウの蓄積、人材の育成には相当に期間を要し、既に特許権として成立しているものについては、許諾されないと当該特許は使用することができませんが、特許権や技術、ノウハウ、人材等の経営資源を持つ企業を買収することにより、これらの資源を一気に獲得することが可能となります。
事業再構築(リストラクチャリング)
多角化戦略をとってきた企業のなかには、不採算事業が企業全体の足を引っ張ることにより企業価値を低くしている企業がありますが、不採算事業(ノンコア事業)を売却し、自社の得意な事業(コア事業)に特化すること、つまり「肥満体質」から「筋肉質」へと転換することで、企業価値を向上させることが可能となります。
事業承継と事業再生
後継者難に悩む中小企業のオーナーにとっては、事業の承継は大きな悩みとなっていますが、企業価値の高い時期に企業を第三者に売却することによって、事業の存続とオーナーの資産を形成の実現が可能となります。
また、一定の採算のとれる事業を持ちながら、過剰債務の返済や金利負担のために追加投資もままならずに悩む企業については、M&Aによって、事業の売却やスポンサーによる出資等を受ける等により、過剰債務の整理、事業の再生を図ることが可能となります。
M&A後の統合戦略
M&Aの買手側にとって、M&A成立は終わりではなく、買収・統合効果を享受するためのスタートとなります。
M&Aによる成果はM&A成立により自動的に得られるものではなく、成立後の統合プロセスの成否によって大きく左右されることになります。
すなわち、事業の内容やシステム、企業文化、人事制度等の異なった企業同士が統合することには様々な問題が発生し、こうした問題が統合後の生産性の低下や従業員のモラルの低下を招き、企業価値を損なうリスクがあることが指摘されています。
このため、M&A後のDayOne計画や100日計画といった初期動作計画をM&A前からプランニングし、M&A成立後、速やかに実行することにより、企業価値の毀損を防ぎつつ、M&A効果を享受していく必要があります。