株式移転とは、ある会社が新設の株式会社(この会社が持株会社※1となることが多いです。)の100%子会社となる取引をいいます。
具体的には、子会社株主の株式を新設の親会社となる会社へ移転するとともに、親会社となる会社の設立時の株式を子会社の株主に割当てるものです。
株式移転は、例えば、以下のようなケースで用いられます。
a.持株会社によるグループの会社運営を行うようなケース。
b.複数のグループ会社が合併という手法ではなく共同の持株会社を設立して統合をはかるようなケース。
株式移転による持株会社
会社法上の留意点
a.株式による現物出資のように見えますが、検査役の調査は、必要ありません。
b.本来株式移転を行っても完全子会社の財産の減少も資本の額の減少も生じません。
したがって、債権者が不利益を受ける余地はないことから債権者保護手続は不要となります。
ただし、新会社法では、株式移転計画に従い新株予約権付社債の承継が認められ、株式移転完全子会社の財政状態に変動が生ずることになりました。
この場合に債権者の異議申し立て手続等の債権者保護手続があります(会社法810条1項③号)
会計処理の留意点
新会社法の施行により、企業結合会計基準との整合性がとられました。完全親会社における子会社株式の取得価額は次のようになります。
(1) 株式移転が取得に該当する場合
株式移転によって共同持株会社を設立する場合、いずれかの完全子会社の規模が圧倒的に大きく結合後の企業集団を実質的に支配するような場合には取得と判定されます。
完全親会社において実質的支配を獲得かることとなる完全子会社の株式は子会社の適正な簿価純資産に基づいて算定され、その他の子会社の株式はパーチェス法による算定となり株式移転の対価資産の時価となります。
(2) 株式交換が持分の結合に当たる場合
(1)のような取得企業がないと持ち分の結合と判定されます。
子会社の適切な簿価純資産額が子会社株式の取得価額となります。
税法上の留意点
子会社の株主からすれば、株式移転は原則、株式の譲渡として、譲渡損益を計上しますが、交付金銭がない等の一定の要件の充足を条件に当該株式の譲渡がなかったものとして、課税の繰延が行われます。
税法上株式移転には、税制適格と税制不適格に区分されます。
合併における税制と主旨を合わせた扱いとなっています。
税制適格株式移転とは、
(1)株式移転完全親法人の株式以外の資産が交付されず、
かつ、
(2)イ.企業グループ内株式交換、
又は、
ロ.共同事業を営むための、
株式移転に該当する場合です。
税制適格株式移転においては、子会社の株主に株式譲渡益課税はされません。また、子会社の資産も簿価が継続されます。
ただし、親法人の子会社株式の取得価額は会計処理と異なる場合があり留意が必要です。
税制不適格株式交換とは、
(1)子法人の資産の時価評価がされ、含み益、含み損が税務上益金、損金となり課税が発生される場合があります。
(2)子法人株主の課税関係
イ.完全親法人の株式以外の資産の交付を受けていない場合は、株式譲渡損益は繰り延べられます。
ロ.完全親法人の株式以外の資産の交付を受けた場合は、株式譲渡損益が発生します。
(3)親法人の子会社株式所得価額は時価となります。
<参考>
株式交換も株式移転も完全親会社を設立する制度ですが、株式交換が既存の会社間で行う制度であるのに対して、株式移転は新たに完全親会社となる会社を設立する制度です。